墓の側に、個人の名前や戒名などが刻まれた石板をご覧になったことはないでしょうか。
それは、故人の情報を後世に伝えるために設置された「墓誌(ぼし)」や「霊標(れいひょう)」「法名碑(ほうみょうひ)」と呼ばれる石板です。これらは、宗派や地域により呼称が異なりますが、基本的な目的や形状は共通しています。いずれも、お墓に埋葬された方の氏名や戒名(または法名)、没年月日などを刻み、記録として残すためのものです。
墓誌(あるいは法名碑・霊標)は、通常、墓碑の側面や背後に独立して設置されます。一見すると付属物のようにも見えますが、その役割は決して小さくありません。それは「家族の記録」として、また「人生の証」として、代々受け継がれる大切な存在です。墓誌・法名碑に彫刻される内容は、故人の氏名/戒名(または法名)/生年月日および没年月日のような項目が一般的です
墓誌や法名碑は、単なる“記録媒体”にとどまりません。まず、後世への手がかりとして、家族や子孫がご先祖の足跡をたどるうえで、貴重な情報源となります。次に、納骨の履歴管理として、同じ墓所に複数の遺骨が納められる場合、それぞれの没年や順序を明示することで、管理の一助となります。最後に、家系の継承と記憶の継続として、個々の人生が「家の歴史」として刻まれることで、代を超えた絆や記憶が育まれます。
墓誌や法名碑は、石に刻まれた“家族の物語”です。
誰が、いつ、どのように生きたのか。どのように家を築き、世代を繋いできたのか。
それらの記録は、時代を越えて静かに、しかし確かに語り継がれていきます。墓誌は、家族の絆と人生の証を、かたちとして未来に手渡す——そんなかけがえのない役割を担っているのです。
